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セナ 悲願の母国初優勝

1991.3.24 ブラジル・グランプリ(インテルラゴス)

想い続けた母国ブラジルでの優勝を果たし 表彰台で自らシャンペンを浴びるセナ

ウィニング・ラップを走り切る体力すらなく、コース上にストップしたマシンのコクピットから、ピットへの無線に向って泣き叫び続けるアイルトン・セナ(マ クラーレン)の姿に、過去7年間、勝てそうで勝てなかったブラジルが、彼にとってどれほ ど大きな夢だったのか・・・、そのセナの想いが、見る者すべてに衝撃となって伝わってきたレースでした。

モーターレーシングに人生のすべてを捧げていたセナ。
彼のその生きる姿勢、そして、夢を実現し、自ら感動に打ち震える姿に、その瞬間を見守っていたすべての人々が、言葉では言い表せないほどの想いを共有したレースでした。

開幕戦を優勝で飾り、乗り込んだ8度目のブラジル。
予選で通算54回目となるポール・ポジションを獲得したセナのアタックは、いつものように神がかり的でした。

セッションが終了する数秒前にアタックを終えるようピットを離れたセナは、ひとつの無駄もない見事なラップを見せます。

「うまく説明できないが、体の中を同時に駆け抜けていくいろいろな感覚があり、それを目に見えない一点に集中させるんだ」と語るセナ。

彼の研ぎ澄まされた精神は、他のドライバーの次元をはるかに超え、セナ自身が「ずっと高いレベル」という領域に達していました。

決勝は、スタートよく飛び出したセナがナイジェル・マンセルとリカルド・パトレーゼのウィリアムズ・ルノー勢を押さえレースをリードします。

序盤、2位マンセルとの差を広げはじめるセナ。
しかし、ウィリアムズとルノーのパッケージングが、予想より戦闘力があることを知ったマンセルがファステスト・ラップをマークしながらセナを猛追。

重要なスタート 速いウイリアムズの2台を抑えセナが1コーナーを奪う

セナよりあきらかに速かったマンセルですが、59周目、開幕戦同様セミオートマのトラブルでリタイアしてしまいます。

これで2位に上ったパトレーゼを40秒以上引き離し、レースはセナの楽勝に終わるかと思われました。
ところが、71周レースも残り10周となった頃、2位パトレーゼがトップのセナとの差を見る見る縮め始めます。

はた目には、独走しているセナが、安全を期してクルージングに入ったように思われました。
しかし、その差の縮まり方の異常さに観客たちが気付きはじめた頃、セナはマクラーレンのコクピットの中で、ギヤ・ボックスのトラブルと格闘していたのです。

「終盤になるとギヤボックスにトラブルが出てきたんだ。まず4速ギヤを失い、やがて3速ギヤも5速ギヤも無くなってしまった。そしてまったくギヤが使えな くなった時もあった。そのため、地元グランプリに勝つチャンスをまたも失うのかとと思いが頭をよぎった。そのうち6速ギヤで走れるようになり、やれるとこ ろまで走り続けようと、フィニッシュまで6速ギヤに入れたままにしたんだ。ドライビング・スタイルを完全に変えなければならず、とても難しいことだった。 エンジン・ブレーキがまったく効かず、フット・ブレーキだけを頼りに腕と肩を力の限り突っ張って300キロから70キロまで減速しなければならなかった」とセナ

さらに残り2周というところで雨が降り出し、セナのドライビングをより難しいものにしていました。

スピードに優るウイリアムズのマンセルを従えて走るセナ

終盤、疲労から薄れていく意識を呼び戻すため、ヘルメットの中で大声を出しながら走り続けたセナは、追い上げてくるパトレーゼをわずか3秒差で押さえ切り、ついに念願だった母国ブラジルでの初優勝を果たしました。

レース後の表彰式は、なんとも言えない異様な雰囲気でした。
興奮し、コースに雪崩れ込んだ大勢のブラジル人ファンが英雄セナの名を大合唱し、彼らが見上げる表彰台の中央に立つセナの姿は、傍らのパトレーゼとベルガーの存在を大きく引き離し、ひとり違う次元に佇んでいるような、神々しさを漂わせていました。

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